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人妻への恋 (15)

私にとっては、会社に入社して慣れない数カ月間の息苦しさを忘れさせる一時でした。

電器店で私が見たてたDVDレコーダーを、真奈美さんもすぐに気に入ってくれました。彼女の自宅への配達手続きを済ませた後は、いろんな店を一緒に巡りながら様々な話をし、たのです。
自分自身でも驚くくらい、ずっと真奈美さんと話していたと思います。彼女が喜ぶ品を選んであげることが出来たことも、私にとっては無事に大役を済ませた安堵となって、気持ちが高ぶったのかもしれません。

真奈美さんは、ずっと私のことを「川島くん」と呼んでくれます。最初は嬉しかった気持ちも次第に欲が出て、名前で呼んで欲しいと密かに思ったりもしました。

「生命保険の説明の時は私が話してばかりだったけど、今日は川島くんがいっぱい話してくれるね」

彼女の言葉に、私は有頂天になりました。昨日の気まずい出来事は、お互いの心の中にしまい込んだのです。実際は彼女が昨夜のわだかまりを消し去ってくれたおかげで、私がそのように振る舞えたのだと思います。



昨日までの新入社員と保険外交員という、会社での日常から始まった関係を超えることが出来たんだ…
もしかしたら真奈美さんかすれば、うちの会社の中で一番親しい相手が自分なのかも…

既に結婚している真奈美さん対して、何かを期待しているわけではありません。いくら彼女との心の距離が近くなっても、所詮は行き先の無い関係に過ぎないのです。
昨日まで私が思い描いた「契約のための交換条件」は、その事を判っていればこそのものでした。

だからこそ、彼女と一緒に過ごせた今日の出来事は、私にとっては思いもかけない、何よりも嬉しい出来事だったのです。

楽しい時間はいつの間にか過ぎ去り、歩道の脇に夕暮れの木漏れ日が差し込んできます。

もうすぐ真奈美さんは夕食を作りに家に帰る時間だ…
今日の一日は終わってしまうんだ…

私達二人は、彼女が住む路線へのターミナル駅へ電車向かいました。
楽しければ楽しいほど、終わりの時間が近付くことに焦燥が込み上げてきます。この先も彼女と親しいだけの関係で済まされてしまうことに、耐えがたい無念さが再び芽生えてきたのです。



乗り換えのコンコースを並んで歩きながら改札に向かう途中、彼女は立ち止り、私の顔を見ながら微かな小声で問いかけました。

「ねえ… 遊びで割り切ってなら いいよ…」
「え?…」

一瞬、私はその言葉の意味が判りませんでした。

「よかったらホテルに行こうか…」

突然のことに、私は息を呑みこみました。湧きあがる鼓動が不規則に胸を打ちならします。動揺する私の顔を覗きこみながら、つい今までの彼女とは別人の笑みを浮かべているのです。

真奈美さんと… セックス…? 
もしかしたら自分をからっている?

「でも… 真奈美さんは… 結婚してるのに…」

聞き返した瞬間、私は激しく後悔しました。
彼女は私を見つめたまま、大人の男性なら決してこの場では口にしない私の言葉に、唇に笑みを浮かべながら小さく頷きます。

「そうだよね… 確かに結婚はしてるんだけど、一緒には住んでいないの… 別居中…」

私には、その後に続く言葉が見つかりませんでした。予期しない突然の出来事に体が固まり、乾いた舌が口の中で縺れます。

「川島くんが知ってるところでいいから…」
「え… あの… この辺は詳しくないんです」
「じゃあ… 私が案内するしかないか…」

駅を出て、通りを曲がった細い道を並んで歩きました。初夏の陽はすっかり沈み、薄暗い路地には殆ど人通りがありません。
ラブホテルのネオンだけが、妖しい色の光を照らします。隣を歩く真奈美さんんのハイヒールの音だけが私の耳に届きます。



幾度も自慰の対象とした真奈美さんを自分のものに出来る…
儚い妄想の願いが叶えられる…

今日一日、彼女に対して固く閉ざした性の欲望が、扉を開け放つように一気に込み上げてきます。それと同時に、乏しいセックス経験に対する不安が私の焦りを更に駆り立てました。

別居しているとはいえ、人妻の真奈美さんを自分が満たせるのだろうか…
大人の女性に見下されるようなセックスしか出来ないのでは…

緊張したままの私は、どのホテルにするかすら決められず、何度か同じ道を行き来しました。
真奈美さんの脚が、あるホテルの入り口の前で急に立ち止ります。

私は上擦った声で彼女を誘いました。
「あ… あの、ここにしましょう」

実際は彼女が決めながらも、男である私が彼女を中に誘ったような取り繕いをするのが精一杯だったのです。

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