新宿での待ち合わせ場所は、駅前の人混みから少し離れた東口のデパート前でした。
巨大なターミナル駅の周りを行き交う人混みの中から、真奈美さんの姿を探しました。
「急に無理なお願いしてごめんなさい。何か予定があったんじゃ…」
息を切らせた真奈美さんが後ろから声をかけました。
彼女の白い上着が、街の眩いネオンの明かりに淡く彩られているかのようです。
今日の午後、オフィスで会った彼女の姿と同じ筈なのに、夕闇に暮れる繁華街の雑踏が、年上の女性である真奈美さんの艶やかさを引き立てます。
「いえ、今日は暇ですから気にしないでください」
私と真奈美さんは、デパートの隣にあるイタリアレストランに入りました。
店の中は明るく落ち着いた色調でコーディネートされ、何組もの男女が楽しそうに夕食の一時を過ごしています。
俺と真奈美さんも、周りから恋人同士って思われているのかも…
テーブルを挟んで目の前に座る真奈美さんに対し、身勝手な想いが心の中を廻ります。
「とりあえず何か食べましょうか。食事はまだですよね」
真奈美さんはメニューを手に取り、私に差し出してくれました。
終始、彼女のペースで段取りが組まれ仕切られることに、不思議と戸惑いを感じることはありませんでした。
むしろ、年上の女性が指し示す流れに従うことに、安らぎに似た心地よさを感じたのです。
もちろん彼女からすれば、私のような保険の契約を取れる可能性のある「客」と接する上での応対なのでしょう。
ですが、数ヶ月前まで学生だった私は、それまで契約やセールスが目的の接客を受けた経験がありませんでした。
そんな私が、真奈美さんの凛とした振る舞いに、年上の女性に対する憧憬に似た感情を抱いたとしても無理はないのかも知れません。
同年代の女性にはない「大人」を彼女から感じながら、その魅力の奥へ深く引き込まれていったのです。
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